犬ちゃんの熱中症
毎年、暑い夏はやって来ます。
気象庁が公開している東京都地点観測(府中)における2017年の記録をみると一日の平均気温が25℃を超えた「夏日」は、7月で27日間、8月で22日間、9月は3日間でした。
平均気温が25℃を超えると、日中の最高気温は30℃をゆうに超え、人はもちろんですが、暑さによる体調不良で来院されるペットが増えてきます。
今回、真夏の最大課題・熱中症について、日々のお散歩が必須の「犬ちゃん」に特化して考えてみましょう。
熱中症の症状
犬ちゃんの「熱中症」の症状について記載してみます。下記の症状については、すべての犬ちゃんに現れるというものではなく、個体差により症状が出る場合や出ない場合、また別の症状を表す場合があります。参考としてください。
- 熱中症の初期症状
- ①普段より「パンティング *1」が速くなる
- ②喘ぎながらよだれを流す
- ③呼吸が浅くなる
- 熱中症の中期症状
- ①体温が上昇する
- ②脈が速くなる
- ③口の中や目が充血する
- 熱中症の重度症状
- ①呼びかけに対する反応が鈍くなる
- ②痙攣(けいれん)、嘔吐(おうと)、下痢を起こす場合がある
- ③脱水症状により、酸欠状態に陥り、舌の色が紫色になる
- ④心拍数の低下、血圧降下、呼吸不全
凡例)
*1パンティング
犬ちゃんは暑い環境にさらされると浅く速い呼吸を始めます。これを「パンティング」と呼びます。舌を出し唾液を蒸発させて体温を下げようとするのです。
熱中症を起こしやすい犬種と条件
口吻(こうふん)・マズルの短い犬種
パグなど短頭種のワンちゃんは、人為的な改良によって生まれたもので、スムーズな呼吸がしづらく、結果、熱の発散効率が下がり、体が冷えにくくなり、熱中症になりやすい傾向があります。
- パグ
- フレンチブルドッグ
- ブルドッグ
- シーズー
- ペキニーズ など
北方原産種、厚い被毛に覆われている犬種
寒い地方で生まれた犬ちゃんや、被毛の形態がダブルコートと呼ばれる二重毛を持つ犬ちゃん。暑さに対する耐性が弱いことに加えて、寒さ対策であるダブルコートが体温を逃がしづらいことから熱中症にかかりやすい傾向があります。
- シベリアンハスキー
- ゴールデンレトリーバー
- ウェルシュコーギー
- シェトランドシープドッグ
- ポメラニアン など
犬種を問わず熱中症を起こしやすい犬ちゃん
- 仔犬やシニア犬
体の生理機能が未発達な子犬や、生理機能が衰えている老犬は、体温調節がうまくできないために熱中症にかかりやすい傾向があります。 - 療養中の犬ちゃん
心臓や呼吸器が弱いワンちゃんは循環機能や呼吸機能がうまくできないため、熱中症になりやすい傾向があります。 - 肥満気味の犬ちゃん
皮下脂肪が断熱材となって熱がこもりやすく、かつ心臓にも負担がかかり気味です。首まわりの脂肪が気管を圧迫し、呼吸機能が低下して体温調節が難しくなるため、熱中症になりやすい傾向があります。 - ちょっとしたことでも興奮しやすい犬ちゃん
暑い環境に加え、興奮することでさらに体温が上昇するため、熱中症になりやすい傾向があります。
家庭での熱中症を防ぐには
犬舎・ドッグサークル
室内犬の場合はドッグサークル、室外犬では犬舎を、南西の窓際を避け、涼しいエリアに設置してください。風通しの良い熱がこもらない場所に設置しましょう。室内犬であれば、窓際を避けてガラス越しの直射日光が当たらない場所へ、室外犬の犬舎は移動が可能であれば日陰の涼しい場所へ設置しましょう。
日陰をできるだけ作り、いつも新鮮な水が飲めるようにしてください。
プール遊び
室外犬で水遊びが好きな犬ちゃんには、子供用プールやタライなどに水を入れておくと、自発的に浸かったりかき出したりして遊んでくれます。
クールダウングッズ
冷房温度は外気温との差が5℃くらいが体に負担がないと言われますが、35℃を越す猛暑日では老犬や仔犬、療養中で体力が落ちている犬ちゃんへの配慮が必要です。
凍ったペットボトルを布に包んで枕にする。アルミプレートやアイスジェルマットなどを利用して過ごしやすくしてあげてください。
外へ連れ出す場合も、外気温との差を少なくしてからにしましょう。飲み水も減りが早く汚れやすくなるので、複数の容器で準備します。
停電対策
夏場はまれに、落雷による停電が発生する恐れがあり、クーラーや扇風機が止まってしまう可能性があります。 日常的に長時間家を空ける人は、不測の事態に対応できるような手立てを考える必要があります。
外出する時の注意点
お散歩する時の注意点
真夏になると午前10時頃にはアスファルトも高温になり、路面に手を触れてみると、いかに熱いかが実感できると思います。
一例として、5月中旬、午後3時の気温を例に挙げます。
この日は湿度も20%程度で適度な風もあり、日なたは少々暑くともカラッと爽やかな日でした。
- 陽の当たらない日陰の場合
- 温度:27℃
- 陽の当たるアスファルト道路に立った場合
- 人間の頭の高さ約150cm:31℃
- 大型犬の頭の高さ約70cm:33℃
- 小型犬の頭の高さ約30cm:37℃
- 同じ場所で計測したアスファルト路面の温度:46℃
上記のように人と小型犬とでは体感温度に6℃の差があり、 路面はプラス9℃の熱さになります。
私たちは衣服や靴を履いているので気付きにくいですが、体高の低い小型犬、足の短い犬種は照り返しの熱気と路面の熱さに晒されることになります。
やむを得ず日中に外出する場合は、熱い路面を歩かせないようカートやキャリーバッグを利用し、大型犬の場合は専用の靴を履かせるなどの対策をしましょう。
カートやキャリーバッグの中に保冷効果のあるアイスジェルマットを敷けば、さらに快適に移動できます。
車でのお出かけする時の注意点
後部座席やラゲッジスペースにトラベルキャリーを乗せる場合は エアコン(クーラー)の風がちゃんと届いているか確認が必要です。
またエアコンが効いている車内でも直射日光が当たり続けないよう、サンシェードで日陰を作ったり、 アイスジェルマットを敷く、水を入れて凍らせたペットボトルを入れておくなど快適に移動ができるよう配慮しましょう。
夏場はバッテリー上がりやオーバーヒートも多いので、 出かける前にバッテリー液、ラジエーター液の量もチェックしてください。
わずかな時間であっても、車から離れるときは絶対に犬ちゃんを残さないでください。日陰に駐車しても、それまでに日光とエンジンの熱で車体は相当熱くなっています。窓を開けておく程度では車内温度の上昇は押さえきれません。クーラーをつけたままにしておいても、エンジントラブルや、バッテリーあがりなどで止まってしまうことがあります。
キーをつけたままは、防犯上好ましくありませんし、犬ちゃんが立ち上がって外を見ようとした際にロックを掛けてしまったという事例があります。
車外へ連れ出して日陰へ係留する場合も、太陽の移動で日陰のエリアが変わることを考慮してあげてください。
海や山などで遊ばせる場合、楽しさのあまりハイになっている場合がありますので、適度に休息させましょう。
ポイント!
日陰は太陽と共に移動します。犬ちゃんから長時間目を離さないようにしましょう。
熱中症になってしまったときの対応
まずは体を冷やします。体を冷やさないまま病院へ行くのは症状を悪化させ非常に危険です。
全身に水をかけ、意識があって水が飲めるようであれば好きなだけ飲ませ、氷や保冷剤などを頭部と動脈のある頸部、わき、そけい部にあて冷やします。この間に獣医さんに連絡をとり、指示に従いましょう。
内臓にダメージを受けている場合もありますので、回復が早かったとしても必ず診察を受けてください。
近年は猛暑日と呼ばれる非常に厳しい暑さが何日も続き、健康被害がでないよう、ニュースや天気予報で高温注意報が呼び掛けられるようになりました。
自分だけは大丈夫、まさか自分が…という過信や油断は禁物です。
犬ちゃんたちは人間よりも数段暑さに弱いことを念頭に、暑い夏を乗り切ってくださいね。
応急処置のポイント
体温を下げ、水分補給することが先決です。熱中症は一刻の猶予も争う病気です。獣医師に診察してもらう前に、少しでも早い応急処置をしてあげることが大切です。
- 日差しを避け、風通しのいい少しでも涼しい場所に連れていく
- 首、脇の下、後ろ足の付け根に水をかけ(濡らしたタオルをかけ)、体温を下げる
- 少しでもいいから、水を飲ませる
この3点をまず対処しましょう。獣医師のもとへ連れて行く間にも病状は進行します。ぜひとも、犬ちゃんの体温を下げる工夫をしてあげてください。
動物病院では、熱中症の度合いに応じて処置をしてくれますが、基本的には体温を下げ、水分補給を点滴などにより行います。そのうえで、そのワンちゃんの状況に応じた処置をしてくれます。